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男性不妊とは

卵子と精子が出会い受精することで、生命が誕生します。
そのためには、勃起して十分量の運動精子がパートナーの体内で射精されることが必要です。男性不妊症とは、この過程に問題を認める状態のことを示します。不妊症の原因はほとんどが女性にあるような認識でいる方も未だに少なくないと思いますが、実際には約半数が男性側にも原因があるといわれています。

精子の問題

男性不妊症の9割以上が造精機能の問題が原因であるとされています。精液所見によって精子の数が減っている乏精子症、運動性が悪い精子無力症、さらに重くなると精子が全くいない無精子症に分類されます。精子の問題の原因として最も多いのが精索静脈瘤ですが、大半は原因不明です。無精子症であっても、後述する精巣内精子回収術(TESE)などの治療法があります。
当院でもこの治療をおこない分娩にいたった患者様もいらっしゃいます。

性機能の問題

勃起の問題(ED)、射精の問題に分類されます。性文化の多様化や晩婚化、そして不妊治療自体の心理的負担(排卵日に失敗できないというプレッシャーなど)から性機能の問題も最近では増えつつあります。これらに関しては薬物療法をまず行いますが、うまくいかない場合には人工授精などを考慮する必要があります。

男性不妊症も女性の治療と同様、問診後に精液検査やホルモン採血、精巣超音波検査などを行い、不妊の原因を特定し、治療を行っていきます。男性不妊の専門的な治療は泌尿器科の医師が担当します。

男性不妊治療方法・検査

1.不妊の男女別の原因について(Comhaire FH et al, 1996)

男女に原因あり 24%
男性のみに原因あり 24%→合計48%に男性側に原因あり!
女性のみに原因あり 41%
不明 11%

2.不妊症の男性における疾患リスク

  • 精巣がんのリスクが高い(2015年の湯村班の日本での男性不妊症症例の調査では日本では0.23%、健常人にくらべ数十倍高い)
  • その他の悪性腫瘍のリスクも高い(Eisenberg M at al., J Urol. 193:1596, 2015)
  • うつ病や糖尿病、虚血性心疾患のリスクも高い(Eisenberg M et al, Fertil Steril. 103:66, 2015)
  • 精液所見(精子の数や運動性、形)が悪いと死亡率がやや低下(Eisenberg M et al., Human Reproduction, Vol.29, No.7 pp.1567–1574, 2014)

といったことがあります。パートナーと一緒に受診していただき夫婦で取り組みましょう。

3.男性不妊症の原因

以下のようなものがあります。(平成27年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業 我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究)
 原因不明(病的な原因なし)の造精機能障害(42.1%)
 精索静脈瘤(精巣の周りの血管の異常、30.2%)
 染色体異常(4.4%)
 薬剤性(1.8%)
 勃起不全(6.1%)
 射精障害(7.4)
 閉塞性精路障害(精巣でできた精子が、外に出てくる経路の閉塞, 3.9%)
 そのほかホルモン異常や亜鉛摂取不足など

また、精液中に精子を認めない無精子症が16.5%です。

4.男性不妊症と関連すると考えられる生活習慣

男性不妊症と関連すると考えられる生活習慣があり、気をつける必要があります。
特にタバコや陰嚢の温度をあげる習慣はすぐに改善しましょう!

 ・タバコ
 ・過度のアルコール摂取、不適切なドラッグ服用
 ・サウナ、長風呂
 ・ブリーフ、ビキニ(密着した下着)
 ・ラップトップパソコンの膝の上での使用
 ・長時間の自転車、バイク
 ・不規則な生活、睡眠不足
 ・AGA治療薬(男性ホルモンの働きを抑える作用のある男性型脱毛症治療薬)
 ・放射線暴露
 ・性交渉の回数が少ない(長い禁欲期間)
 ・亜鉛摂取不足
 ・肥満

5.陰嚢温度上昇と精液所見の悪化について

  •  (A. Jung & H.-C. Schuppe. Andrologia39,203–215,2007)

6.男性不妊症外来ですること

6-1. アンケートや問診

まず、アンケート、問診にて以下のようなことを伺います。

  • 子作りをしている期間、お子様がいらっしゃるかどうか
  • これまで治療した病気について (おたふく、停留精巣、鼠蹊部の手術、抗がん剤、放射線治療、高温環境、下垂体や泌尿器科臓器の手術、最近の高熱の有無など)
  • 併存している病気(尿路性器の異常、尿路感染症、慢性呼吸器疾患、睡眠時無呼吸、BMI高値、糖尿病、神経障害、内分泌疾患、うつ、炎症性腸疾患など)
  • 使用している薬やサプリメント (排尿障害に対する薬物治療、男性型脱毛症治療薬、抗精神薬、抗うつ薬など)
  • 嗜好歴/生活習慣や職業 (タバコ アルコール サウナ 長風呂 ブリーフ ラップトップPCの膝上使用 バイク 睡眠時間 夜勤の有無 デスクワークの有無など)
  • これまでの検査や治療の内容
  • パートナーの年齢や女性因子、産婦人科学的治療の内容
  • 男性機能(勃起不全)のアンケート (SHIM/IIEF5)

6-2.泌尿器科での診察検査(泌尿器科の生殖医療専門医による)

一般的な検査

 身長、体重、血圧の測定
 外性器(陰嚢や陰茎)の視診、触診
 精巣(睾丸)の体積の測定
 陰嚢部超音波検査(精索静脈瘤や、精巣腫瘍の有無などのチェック)
 採血(一般的な内臓機能の検査、脂質代謝、亜鉛濃度、性ホルモン、感染症など)
 精液検査(精液量、精子運動率、精子濃度)
  SMAS(https://www.ditect.co.jp/products/analysis/smas.html新しいウィンドウで表示します 株式会社ディテクト)という精子運動解析装置を用いており、
  精子の運動性を細かく分析することができます。

6-3.泌尿器科での特殊な検査・高度精子機能検査

1.精子を認めない場合 染色体検査、Y染色体の微小欠失(保険適応外)

2.高度精子機能検査 
i)クルーガーテスト

精子形態について細かく調べる検査です。精子を染色後、顕微鏡で観察を行い、正常形態精子の割合を算出します。


ii)MiOXSYS(http://www.nakamedical.co.jp/pdf_img/201706/cata_nm_miox_miox_ss_mioxsys.pdfPDF
株式会社ナカメディカル)を用いた精液の酸化ストレステスト
(保険適応外)
酸化ストレスは、男性不妊症の最も重要な原因の一つです。原因不明の精子形成障害や精索静脈瘤などで上昇すると言われています。この検査は精液中の酸化ストレスの度合いを測定できます。この結果が男性不妊症の診断や治療方法の選択の際にも用いられます。精液の液状化が不良の場合は測定できないことがあります。

iii)Halosperm(https://www.halotechdna.com/productos/halosperm/新しいウィンドウで表示します, Halotech社)を用いた精子クロマチン分散化試験(Sperm Chromatin Dispersion TEST、保険適応外)
精子が何らかのストレスを受けることで、遺伝情報である精子DNAが損傷することがあります。この検査では、形態検査ではわからない、精子DNAについて調べます。精子に特殊な処理を行うと、精子DNAが損傷しているかどうかを区別することができ、DNAが損傷している精子の割合を判定します。

7.当クリニックにおける精液検査の結果から

7-1.精液検査の結果 (2016年6月~2018年7月)

多くの方が異常でした。

7-2.加齢とともに低下する精子数 (2016年6月~2018年7月)

7-3.禁欲期間とともに運動している精子の割合(2016年6月~2018年7月)

禁欲期間とともに運動している精子の割合は低下していました。

7-4.当院における主な男性不妊症の治療

  1. 1 .造精機能障害
     原因不明の場合 …生活改善指導、抗酸化剤のサプリメント、漢方薬など
     亜鉛欠乏症   …亜鉛補充(ノベルジン、亜鉛サプリメント)
     当院の解析では13.3%のかたが亜鉛欠乏でした。
     内分泌異常 …ホルモン補充療法
  2. 2 .無精子症
     精巣内精子抽出術(simple TESE、micro-TESE; 当院で日帰り、局所麻酔にて実施しています。顕微受精も必要です。)
     精路再建術(実施施設や連携施設に紹介としています。)
  3. 3 .精索静脈瘤
     顕微鏡下精索静脈瘤手術(当施設の鴨川市の本院や千葉大学医学部附属病院、桐友クリニックなどの連携施設に紹介しています。麻酔や治療日程は施設によって異なります)
  4. 4 .勃起不全
     シアリス、バイアグラ
  5. 5 .射精障害
     アモキサン
  6. 6 .染色体異常に対する遺伝カウンセリング(保険適応外)
  7. 7 .精子凍結(がん生殖医療を含めた妊孕性温存治療、保険適応外)

7-5.まず生活改善から!(生活習慣とその改善指導の解析)

 まずできることは、生活改善です

生活習慣とその改善指導の解析結果(Komiya A. et al, ESHRE 2020)

 2018年5月から2019年6月までに亀田IVFクリニック男性不妊症外来を受診した203例(年齢中央値35歳)での解析結果

多くの方が精液所見を悪化させうる生活習慣を持っていました。
喫煙習慣あり 47(23.2%)
習慣的なアルコール摂取あり 94(46.3%)
長風呂を含めた陰嚢温度を上昇される習慣あり 150(73.9%)
タイトな下着着用(ボクサーブリーフなど) 136(67.0%)
Body Mass Index (BMI)30以上 16(7.9%)
生活習慣改善指導だけでも精液所見は改善していました。
生活改善指導前 生活改善指導後
禁欲期間 3.7日 2.8日 (p=0.0135)
乏精子症
(精子が少ない)
99/203例(48.8%) 77/197例(39.1%, p=0.0511)
精子無力症
(精子の運動性が悪い)
160/203例(78.8%) 91/196 例(53.6%, p<0.0001)
乏精子無力症
(精子の数が少なく、動きも悪い)
81/203例(39.9%) 47/196例(23.7%, p<0.0001)