本邦における凍結融解胚移植の周産期予後

今回は、当院で毎週木曜日に外来を担当していただいています東京医科歯科大学 齊藤 和毅先生のブログ記事になります。
当院では胚移植の90%が一度受精卵を凍結してから別の周期に移植する方法をとっています。その際のお母さん側の子宮内膜の準備の仕方は様々あり、当院ではホルモンの薬を用いて移植する方が大半を占めます。ただ、合併症や妊娠成績にも一長一短ありますので、患者さまに応じて移植方法を検討しています。例えば当院の成績では採卵直後に自然の排卵を用いて凍結胚を移植すると成績が芳しくなく、採卵直後に戻す場合はホルモンの薬を使って子宮内膜環境を整えていくことを勧めていますし、排卵周期で移植する場合は1周期お休みしていただいています。 また、齊藤 先生が日本のビッグデータで示してくれているような論文を日々アップデートし、患者さまに応じて適切な凍結胚の戻し方を検討していくことが、より良い妊娠転機につながると思っていますので、今回のブログ記事をお願いいたしました。


今回はART治療と妊娠期の安全性についてお話したいと思います。近年は体外受精で胚を獲得した場合に、凍結保存しておくことが可能になりました。胚が子宮内に着床することができるタイミングはごく限られているため、凍結胚を子宮内に移植する場合には着床環境を整えた上で行います。一般的には、この着床の環境は自然の排卵に同期させることで準備する方法と、ホルモンのお薬を投与することで人工的に調整する方法があります。自然排卵に同期する方法は、自然の着床環境とほぼ同じ状況を作り出せますが、適切なタイミングを確認するためには頻回に通院する必要があります。一方でホルモンのお薬を使用する場合には自然の環境と全く同じとは言えないものの、お薬の使い方を調整することによって、移植のタイミングを自由に調節することが可能です。そのためスケジュールの調整が容易となり、仕事が忙しい方や排卵がうまくいかない方では大変有効な方法です。
これまで、この2つの子宮内膜環境の調整での妊娠率は大きく変わらないと報告されていましたが、妊娠中の母児の経過などその他の差に関しては明らかにされていませんでした。
私たちは日本産科婦人科学会のARTオンライン登録データを用いて、日本全体のART治療データから凍結融解胚を移植する際の子宮内膜調整法と周産期合併症の関連につき検討しました。その結果、ホルモン補充周期は自然排卵周期と比較して移植後の妊娠において帝王切開術、過期産、癒着胎盤、妊娠高血圧症候群のリスクが高く、妊娠糖尿病のリスクが低くなることが分かりました。ただし、本研究では内膜調整法と周産期合併症の直接の因果関係を検討しているものではないため、それぞれの治療法を選択する背景となる患者さんの不妊症の病態などが影響している可能性もあります。重要なことは、不妊症治療施設と分娩施設が必要な医療情報をしっかりと共有し、適切な管理を行うことと考えています。またリスクの差がなぜ発生するかを解明し、胚移植法をより適切に改善していくことが大切です。

 

Saito K, Kuwahara A, Ishikawa T, Morisaki N, Miyado M, Miyado K, Fukami M, Miyasaka N, Ishihara O, Irahara M, Saito H. Endometrial preparation methods for frozen-thawed embryo transfer are associated with altered risks of hypertensive disorders of pregnancy, placenta accreta, and gestational diabetes mellitus. Human reproduction 2019;34:1567-1575.  

Saito K, Miyado K, Yamatoya K, Kuwahara A, Inoue E, Miyado M, Fukami M, Ishikawa T, Saito T, Kubota T, Saito H.. Increased incidence of post-term delivery and Cesarean section after frozen-thawed embryo transfer during a hormone replacement cycle. Journal of Assisted Reproduction and Genetics.. 2017.01; 34 465-470.

文責:川井(院長)