透明帯除去により胚発育が改善!?(論文紹介)

2020年5月20日(水)「受精卵の膜除去で2人妊娠 鳥取のクリニックが発表」というニュースが流れました。テレビでも取り上げられましたので、御存知の方も多くいらっしゃると思います。今回はこの新しい技術の有効性を立証した論文を紹介させて頂きます。

鳥取県米子市にある「ミオ・ファティリティ・クリニック」の見尾保幸先生らは、受精卵を取り囲んでいる透明帯を取り除いて培養した受精卵を移植する新しい手法により2人の妊娠を報告されています。この新しい手法の有効性を立証する論文を今年の4月に発表されています。

Removing the zona pellucida can decrease cytoplasmic fragmentations in human embryos: a pilot study using 3PN embryos and time-lapse cinematography. Yumoto K, Shimura T, Mio Y. J Assist Reprod Genet. 2020 Apr 13. doi: 10.1007/s10815-020-01773-y.

彼らはこれまでの膨大な受精卵の発育過程のタイムラプス動画から、卵子を取り囲んでいる透明帯と受精卵の間に繋がっている糸が見られる箇所から細胞分裂時にフラグメンテーション(断片化した核を持たない細胞)が発生しやすいことを見出しました。フラグメンテーションの発生は受精卵の「良好な発育」と関連(負の相関)があり、フラグメンテーションが「増える程」、受精卵の発育は「悪く」なります。そこで、彼らはこの透明帯と受精卵の間に繋がっている「糸」を切ってしまえば、フラグメンテーションの発生は抑えられ、その結果、胚の発育は良好になるのでは?との仮説を立てました。また、受精卵から「透明帯を取る」ことで「糸が切れる」と考えました。

このことを証明するため、先ず、彼らは媒精により多精子受精となった異常受精卵を用いて検証を行いました。異常受精卵の「透明帯を取らない」グループと「透明帯を取る」グループの2つに分けて受精卵の発育を比較しました。

透明帯の状態 取らない 取る 有意差
供試異常受精卵数 42 71 -
分割率 35 (83.3) 69 (97.2) <0.01
Grade 1 (0%)の割合 7 (20.0) 18 (26.1) なし
Grade 2 (<20%)の割合 9 (25.7) 29 (42.0) <0.05
Grade 3 (20-39%)の割合 14 (40.0) 17 (24.6) なし
Grade 4 (40%≤)の割合 5 (14.3) 5 ( 7.2) なし
融合率 - 36 (52.2) -
胚盤胞到達率 - 21 (30.4) -

この結果、透明帯を「取らない」グループで胚盤胞まで到達した受精卵は無かったにも関わらず、透明帯を「取る」グループの受精卵の30.4%が胚盤胞まで到達したと報告されています。

今後、この方法は体外受精を何度繰り返しても受精卵の発育が良くない患者さんを救う新しい培養方法となる可能性があると強く感じました。

余談ですが、この論文の中で私が過去に発表した論文が引用されていました。

Vitrification of human hatched blastocysts: a report of 4 cases.
Hiraoka K, Hiraoka K, Kinutani M, Kinutani K.
J Reprod Med. 2007 May;52(5):413-5.

この論文は、4個の「透明帯のない」胚盤胞を凍結・融解した結果、4個全て生存しており、この4個を4人の患者さんに移植した結果、3人の患者さんが妊娠・出産されたことを報告したものです。「透明帯のない」胚盤胞であっても凍結・融解は問題なく出来ることを示しました。

今回紹介させて頂いた見尾先生の手法が今後広く用いられることになると、受精卵の透明帯を「取る」ことから必然的に「透明帯のない」胚盤胞を凍結保存する必要性が出てきます。そこで、「透明帯のない」胚盤胞の凍結保存について報告した私の論文が引用されたのだと思います。

今後、見尾先生からの新手法の続報を待ちたいと思います。

文責:平岡(培養室長)