新型コロナウィルスパンデミック下での不妊治療中断に対する患者様向けのガイダンス(ヨーロッパ生殖医学会)

ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)が不妊治療を中断する声明を出した理由を患者様向けにQ&A形式で出しています。とてもわかりやすいので、ニュアンスを変えないように翻訳しました。不妊治療を受けている患者様からすると、治療を急ぎたい気持ちは私たちも重々承知しています。どうぞ、参考になさっていただければと思います。

●なぜESHREは不妊治療をすべて中止するよう声明を出したのですか?
COVID-19によるパンデミックの状況下、ESHREのような学術団体が、状況に対処する方法について不妊クリニックや生殖医療に携わる専門家にアドバイスを策定するのに最適な立場となります。医療資源の適切な再割り当てをサポートし、ソーシャルディスタンスの推奨する現在の状況を見据え、最新の情報を加味し、有識者メンバーでリスクベネフィットを検討の上、緊急ではない不妊治療の一時停止を結論付けました 何より、すべての患者様と医療者の安全を確保することが最優先と考えます。

●この時期に体外受精治療は安全ですか?
COVID-19は新しいウイルスであるため、情報はほとんどありません。 ART治療と妊娠への影響が未知数であるため、治療を延期することは合理的と考えています。懸念される事項は以下の通りです。

  • COVID-19感染は妊娠中の女性にとって通常より悪影響を及ぼす可能性が否定できない。
  • COVID-19感染した患者に使用さる一部の薬は、妊娠中には推奨されない。
  • 妊婦におけるCOVID-19の影響はよくわかっていない。

●ESHREはなぜ胚移植の延期を推奨しているのですか。
「この時期に体外受精治療は安全ですか?」の答えの通りです。補足して、体外受精で用いる凍結卵子・凍結胚は卵巣刺激直後に移植せず、翌周期以降での胚移植が可能となります。妊娠率を低下させないと考えられるため代替的な治療方法として凍結手技を用いた延期移植が提案されています。

●ESHREが自然妊娠について妊娠を延期するような声明を出さないのはなぜですか?
不妊治療による妊娠は医療的な介入が必須となります。つまり医療施設への複数回の通院と複数の人との接触、超音波検査、採血などを含む諸々の処置が必要ですが、自然妊娠はそうではありません 。 IVF妊娠は、卵巣刺激を開始した後でも中断することも、胚移植を延期することもできますが自然妊娠は引き返すことができません。
体外受精治療の延期を一時的に推奨しますが、新しい情報の集積や、パンデミックの状況によって適宜対応を検討します。

●胚移植はどの程度の延期が好ましいでしょうか。
ESHREは、COVID-19のパンデミックがコントロールされ、感染のリスクが最小限に抑えられるとすぐに、体外受精治療が再開されることを検討しています。

●胚の凍結は妊娠率を低下させますか?
体外受精治療では、卵子(日本ではあまり行われていません。)と胚の凍結が一般的に行われます。 多胎を減らすため移植以外の余剰胚は、のちに胚移植するために凍結すること、卵巣過剰刺激症候群などの合併症を減らすために凍結することもあります。 どちらのケースでも、凍結手技は妊娠や出産の可能性に悪影響を及ぼさないことが研究で示されています。

●COVID-19感染の結果として、新生児の有害な転帰はありますか?
現在、妊娠中のCOVID-19感染の結果としての新生児の有害な転帰の証拠はありません。 これは新しいウイルスであるため、その影響に関する情報がはっきりしてくるまでにはしばらく時間がかかります。 現在のところ、COVID-19感染妊婦から生まれた新生児のほとんどは健康であるようです。 可能な予防策の詳細については、産科医またはかかりつけの医師に連絡してください。

●若年がん患者の妊孕性温存治療は許可されているのですか?
がん患者は一般的にがんに対する治療は延期できないことが多く、限られた時間の中で行う妊孕性温存治療は緊急性があると考えられています。

https://www.eshre.eu/Home/COVID19QApatients

≪私見≫
世界各国のARTのデータ収集・分析・普及を行う非営利国際機関であるICMARTから、新型コロナウィルスのパンデミックの状況下において生殖に関する新規治療の開始を見合わせること、不妊治療に関連するその他の非緊急治療をすべて延期することが推奨されていました。これを受け日本生殖医学会でも同様の声明を2020/4/1にだしたわけですが、ネットニュースでも良くも悪くも話題に上がりました。学術団体である日本生殖医学会の今回の声明は、不妊治療をしている患者様にとっても、関わる医療者にとっても感じたことがない心理的な負担であったことは間違いありませんが、私は決して間違った判断だったとは思いません。今回のことを踏まえて患者様と繋がっていることの大事さを強く感じ、様々な方法でお互いサポートできればという気持ちで現在に至っています。まだまだ気が抜け前せんが、終息まであと一歩です。支えあいながら乗り切っていきましょう。

文責:川井(院長)