原因不明不妊に対するアメリカ生殖医学会の治療ガイドライン

原因不明不妊(一般検査で異常が認められない)の治療の有効性と安全性に関してアメリカ生殖医学会の専門委員会からでたガイドラインを紹介します。1968年から2019年までに報告された研究から88件の関連度が高い論文を抽出してまとめられています。18ページほどありますが、最後にrecommendationを推奨レベル(A,B,C)に分けて、まとめてくれていますので参考になさってください。

  1. 自然周期による人工授精は、卵巣刺激剤を用いた人工授精ほど効果がなく期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルA)。
  2. クロミフェンを用いたタイミングは、期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルB)。
  3. レトロゾールを用いたタイミングは、期待できる効果が得られないため勧められない(推奨レベルB)。
  4. hMG/FSH製剤を用いたタイミングは、クロミフェンやレトロゾールを用いたタイミングと差がなく多胎リスクも高いため勧められない(推奨レベルB)。
  5. クロミフェンを用いた人工授精は推奨される(推奨レベルA)。
  6. レトロゾールを用いた人工授精は推奨される(推奨レベルA)。
  7. クロミフェンもしくはレトロゾール+hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、多胎妊娠リスク増加のため勧められない(推奨レベルB)。
  8. 低用量hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、複雑で費用も高く勧められない(推奨レベルB)。
  9. 通常量hMG/FSH製剤を用いた人工授精は、多胎妊娠リスク増加のため勧められない(推奨レベルA)。
  10. クロミフェンもしくはレトロゾールを用いた人工授精はhCG(排卵誘発剤)注射後0〜36時間に人工授精1回実施が推奨される(推奨レベルB)。
  11. クロミフェンもしくはレトロゾールを用いた人工授精は3〜4回実施し、妊娠しなければhMG/FSH製剤用いた人工授精より体外受精へのステップアップが、推奨される(推奨レベルB)。
     Fertil Steril 2020; doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.014

≪私見≫当院の治療法もガイドラインに応じた治療となっています。ただし、大きく異なっている部分もあります。

  1. 自然周期による人工授精 を実施するかどうかですがアメリカでは平均人工授精が800ドル(約10万ほど)かかるため、ここまで高いのであればクロミッド・レトロゾールを併用して妊娠率が上がることがわかっているならそっちを優先するかもしれません。ただし、薬を使用すると副作用や複数卵胞発育により周期キャンセル率や多胎率の上昇にも繋がりかねないので当院では女性の排卵障害がなければ自然周期による人工授精を行うこともあります。
  2. クロミフェンを用いたタイミングも 3.レトロゾールを用いたタイミングもプラセボとほとんど差がないと記載されていますが、当院では少し上昇しています。もちろん排卵誘発剤や黄体補充の組み合わせなども施設によって異なるので一概に言えませんが、当院ではクロミフェン・レトロゾールを用いたタイミングともに少し妊娠率が自然周期より良い傾向にありますし、引用されているような多胎率(8%前後)でもありません(当院では1.3%)。

ともあれ、このような先行論文があることで患者さまにエビデンスに基づいた観点と当院の臨床成績から治療選択を提示できていきますので、納得いく形で治療方針を相談していければと考えています。

文責:川井(院長)