非常事態宣言中にタイミングはとっていいの?

新型コロナウィルス(COVID-19)感染症について、分娩前後(母子感染や新生児への感染など)のデータが少しずつ出てきていますが、妊娠初期のデータや不妊治療に関する部分はまだまだ十分な論文が出てきておりません。不妊治療に関わる内容を患者様に伝える上で、推測にとどまってしまうことが多いのが現状です。しかしながら、当院に関わらず不妊治療に関わる医療者は、新型コロナウィルスに打ち勝ち、同時に治療が中断していることに不安を感じている患者様を支えていきたいという気持ちは一緒だと思います。我々も、患者様の想いに応えられるようわかる範囲で情報発信をしていきたいと思います。

①性交渉(セックスなど)やマスターベーションで感染は大丈夫か?

腟粘液や精液を介した感染は、まずなさそうです。ただし、セックスに付随するキス・ペッティング・愛撫・オーラルセックスなどの行為は、唾液を介した直接接触感染を拡大する可能性は否定できません。マスターベーションは前後にしっかり手洗いなどをすることにより問題ないとされています。(https://www.ippf.org

≪私見≫国際家族計画連盟(IPPF)は上記のように報告しています。どの学会も妊娠することを禁止してはいないので、妊娠したい気持ちを無理に我慢する必要はないかもしれません。正直なところ前戯なしの性交渉のイメージはわきませんよね。

②腟粘液を介した感染がなさそうとされた根拠について

COVID-19肺炎の診断がついた女性患者10名の7-40日の腟培養検査でコロナウィルスが同定できなかったというQiu Lらの論文が根拠になっています。症例数が少ないこと、また、患者は皆閉経後(52-80歳)であったことから生殖年齢の女性に必ず当てはまる訳ではありません。(Qiu Lら : Clin Infect Dis. 2020 PMID: 32241022)

③精液を介した感染がなさそうとされた根拠について

Panらによる34名のCOVID-19感染症の男性患者の精液からはウィルスが同定できなかったと発表した論文が根拠となっています。 急性症状から数週間(29-36日)たった患者からの検体であったこと、重症患者が含まれなかったことから、急性期やウィルス血症になっている患者であったら違う結果になっていたかもしれないとも記載しています。おもしろい知見として、感染時に17.6%(6/34)の患者が陰嚢の違和感をうったえており、今後、生殖機能との関連や後遺症なども調査する必要があるかもしれません。今回の論文では残念ながら精液所見は調べられていません。
もう一つ彼らが報告した内容として、COVID-19ウィルスの細胞への侵入にはACEとTMPRSS2タンパク両方の発現が必要になりますので、これらのタンパクが細胞内で発現しているかどうかを調査しています。精巣内の6490細胞(精子の元となる細胞や精子を支持するライディッヒ細胞、セルトリ細胞など)にこれらのタンパクが共に発現しているかを調べていますが、陽性細胞は0.1%未満(4/6490)でした。これらの点からも精巣内への直接のCOVID-19感染の影響は少ないとしています。
(Michael Lら : In Press, Journal Pre-proof. Fertil Steril. 2020、Feng Pら : In Press, Journal Pre-proof. Fertil Steril. 2020)

≪私見≫COVID-19の子宮内感染も初めは否定的でしたが症例が蓄積すると低い確率ではありますが起こることがわかってきています。同じようにウィルスの暴露量が多い男性・女性では精液、腟粘液での移行が起こることが、今後証明されるかもしれません。ただし、移行があったとしてもごく僅かであると理解していいのではないでしょうか。
よって妊娠を希望される性交渉(タイミング)は妊娠初期の合併症などの観点からは不明な点も多々ありますが、積極的に自粛する必要はないと思います。ただし濃厚接触であることは間違いないとご理解ください。

文責:川井(院長)