治療成績_培養成績と移植方法(2018.11~2019.10)

当院では複数名の培養士がおりますが、誰が行っても治療成績が変わらないような徹底した管理を行っています。患者様の卵子・精子はかけがえのない生命の源なので失敗は許されません。
当院のこだわりとして全症例タイムラプスでの観察を行っています。タイムラプスがないと観察ごとにインキュベーターから受精卵を出さなくてはいけないので温度や気相などの環境変化により胚へのストレスが蓄積するようです。我々は皆さんに妊娠していただくことも大事ですが、生まれてくる赤ちゃんに少しでもストレスを与えることがないことを心がけています。他施設と比較したことはないですが、同施設内ではタイムラプス導入前に比べて胚発生は明確に改善しています。タイムラプスは開閉が少ない分、受精卵には負担はかかりませんが、培養液のpHの変化などには注意が必要です。当院では胚発生不良な患者様に対して随時やり方を変更できるよう、受精卵を6日間育てておく培養液も3種類用意し患者様に応じて使用方法を変えております。

顕微授精は当院の平岡培養室長が世界の国々に技術指導を行くようになったきっかけの技術です。顕微授精を通して当院は新設クリニックながら複数企業の見学・指導施設となっており、多くのご施設の先生方、培養士の方にお越しいただいています。
本年度は他院からの体外受精の反復不成功の患者様の転院や無精子症の患者様の顕微授精症例数も多く、顕微授精の受精成績が85%を下回り、当院としては例年に比して比較的低い一年となりました。ただし、全症例で81%を通常刺激を行なっても超えておりますので、例年通りのビックリする好成績ではありませんが、どこと比較しても恥ずかしくない成績だと思います。こちらは現在、何本か論文投稿準備も行っておりますが、自分たちの日常業務に追われて先に進めていないこともどうにかしないといけません。

精子選びに関しては、本年は精子のDNAダメージをみる検査、DNAダメージを受けている精子を除外する方法などが数多く発表され臨床応用されてきた1年でもあり本院も多々の検討を繰り返してきましたが、概ね、使用する検査法・精子選択法の基準が定まってきた感じがします。Split症例(通常の体外受精(精子をふりかける:媒精)と顕微授精を混ぜる方法)を増やしたのも、1.男性因子があるけれど顕微授精を避けることができる症例の媒精症例を増やしたこと、2.元々DNAダメージが高く胚発生が低下しそうな症例を前もって顕微授精を一部の症例で加えたことの様々な理由によるためです。この辺りについては、もう少し数値化してお示しできるよう現在解析を行っています。
様々なオプションの検査・キットの価格が高額なため、患者様目線にたつと全例に高い検査や精子選択キットを使用することは考えておりません。ただし、胚発生の改善・そして少しでも患者様が赤ちゃんを授かれるよう、適切な時期でのオプション検査、精子選択キットの介入も検討していきたいと思います。

本年度は凍結融解胚移植が93%に増加し、特にホルモン補充周期での凍結融解胚移植が増えた1年でした。一番の理由は妊娠成績です。圧倒的にホルモン補充周期下での凍結融解胚移植が高い妊娠成績で安定しており、再現性も高く、患者様の通院回数も少ないという理由からです。特にERA検査を反復着床不全の患者様に導入してからは、再現性・安定性がとても必要となってくるので自ずと偏りが発生したのだと思います。しかしながら、ホルモン補充周期は流産率が高いという報告も出てきているため今後症例を選んで排卵周期での凍結融解胚移植も増やしていくことを検討しています。新鮮胚移植を残している理由ですが、ERA正常で良好胚を戻しても妊娠継続しなかった方で新鮮胚移植を用いて卒業された方が複数人いることです。これが偶然なのか必然なのかはわかりませんが、今のところ一部の症例で凍結融解胚移植に不向きな症例があるのではないか?と考え新鮮胚移植は少し残しております。

来年度の目標は妊娠予後です。本年度途中から意識して追跡をしておりますが、開院当初から妊娠卒業された患者様の周産期合併症が17%、そして障害児が生まれている確率が約4%です。こちらを1%でも減らせるよう、ハイリスク妊娠の管理の徹底を目標に、そして軽減できる合併症は少しでも減らせるような取り組みを検討していきたいと思っています。
現在、常勤医師は私一人であり、亀田総合病院の先生方、東京医科歯科大学の先生方、また研究班などでご一緒させていただいた先生方のお力を借りて運営しております。クリニックの規模に比して医師が少なく、患者様にはご迷惑をおかけしております。来年はぜひ一緒に生殖医療に邁進できる医師を積極的に探して医療に励みたいと思います。

文責:川井(院長)