人工授精の方法による出生率との関連(論文紹介)

彼らのグループは以前、原因不明の不妊カップルの特徴(女性の年齢、不妊期間、過去の喪失歴、収入など)が、IUIの出生率に関連すると報告をしています。しかし、なかなか介入できない部分ではあります。今回の調査はAssessment of Multiple Intrauterine Gestations from Ovarian Stimulation(AMIGOS)臨床試験(12施設の臨床施設で実施された原因不明の不妊女性18-40歳)の2462周期の人工授精の方法による出生率との関連を示した二次解析となります。こちらをご紹介させていただきます。
Karl R Hansenら、Human Reproduction, 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa027

論文紹介

AMIGO試験に参加した854組のカップルを対象(2011-2014年)に前向き無作為化多施設臨床試験です。クエン酸クロミフェン、レトロゾールまたはゴナドトロピンによる卵巣刺激後に人工授精を実施し、最大4サイクルの連続治療を実施しています。クラスター加重一般化推定方程式(GEE)を用いて、同一患者内の複数の人工授精周期に用いる総運動精子数と出生率との関連を示しました。
以前に報告で分かっている患者特性で調整し検討を行ったところ、人工授精中の患者の不快感は出生率の低下と関連していました(補正リスク比 0.40:0.16-0.96)。hCGトリガー注射から人工授精までの時間は転帰と有意な関連はありませんでした。調整後総運動精子数が高ければ高いほど、出生率が高くなっていました。(調整後総運動精子数 1,510万~2,000万(出生率:14.8%)、500万以下(出生率:5.5%)と比較して)(補正リスク比 2.09:1.31~3.33)。しかし、調整後総運動精子数が100万以下(5.1%)の場合にも出生児は発生しました。体外受精での出産は不可能であるという合理的な閾値は存在しないかもしれません。

私見

この研究はとても参考になりました。私たちは一人でも体外受精にステップアップする前に人工授精で妊娠できる患者を増やしたいと思い、様々な角度から当院の臨床成績も解析を加えています。
この論文では下記のことが検討されています。

①超音波ガイド下の人工授精は出生率に寄与しなさそう。
過去の論文もそうですが、今回も同様の結果でした。

②カテーテルタイプ、人工授精のむずかしさ、人工授精時の出血は出生率に寄与しなさそう。人工授精時の患者の不快感が出生率に影響した。
こちらも面白いですね。患者様からすると一番自覚症状とつながるところなので、大事なポイントではあります。カテーテルの種類と人工授精の妊娠成績との関係についての先行研究では、柔らかいカテーテルを使用することで出生率が改善することが示されています(Schoolcraftら、2001年、ASRM Practice Committee 2017)。では不快感ってなんでしょうか。不快感を訴えた患者様は3.2%(2462周期中79症例)に留まったこと、また人工授精のカテーテルとの相関があったことを考えると、本当に難しく、治療が困難であった症例なのでしょうか。
参考程度に、今回の研究では人工授精の難しさ6.7%(2462周期中166症例)、人工授精時の出血8.8%(2462周期中216症例)となっています。

③hCGトリガーからの時間は出生率に寄与しなさそう。
Cohlenらの2018年のレビューでは、hCGトリガー後24~40時間の間に人工授精を行うことが出生率を低下させないという中程度のエビデンスがあると報告しています。
ランダマイズ試験では、hCGトリガーからの時間は出生率に寄与しないという結論になっているものが多いです(Aydin ら.2013、 Claman ら. 2004、Rahman ら. 2011)。まだ今回の研究ではhCGトリガーからの時間は0-44時間と幅広く設定されていますが、こちらでも差がありませんでした。
実際、臨床を行っていると、どのような状態でhCGトリガーを実施するかによって結果が変わってくると思いますので、海外のビッグデータやレビューだけを参考にするのは危険ですが、私たちはhCGトリガーからの時間は患者様の状態にあわせて0-36時間で設定をしています。

④調整後総運動精子数は多い方が出生率影響しそう。ただし、少ないからと言って妊娠しないわけではなさそう。
複数の先行研究では、調整後総運動精子数と治療成績との関係が取り上げられています(Campana ら 1996; Guzick ら. 1999; Millerら. 2002; Mervielら. 2010; Dinelliら. 2014; Lemmensら. 2016; Thijssenら. 2017)。IUI治療を行うための推奨下限閾値は、調整後総運動精子数は100-500 万の範囲とされています。今回の研究では多ければ調整後総運動精子数は1500 万以上はプラトー。調整後総運動精子数1500万以下の妊娠率は減少します。だからといって調整後総運動精子数は100万以下でも出生率は5.1%あり、低いからといって中止にはできないという結果となっています。私たちの施設の解析では調整前総運動精子数200万以下は2016年以降妊娠例がありませんが、調整後総運動精子数がいくら少なくても妊娠例がありますので、調整後の総運動精子数は治療中断の参考にはしないという大前提で行っております。

文責:川井(院長)