採卵時のフラッシングは空胞を減らせるの?(論文紹介)

採卵時の回収手技の方法として、次の二つの方法があります。
(1)一定の圧で吸引をする方法と(2)卵胞の中を何度かフラッシュする方法
フラッシングは体外受精が始まった当初の採卵ではルーチンで行われていた手技です。フラッシュすることで卵胞内からの卵子の吸い残しを減らし、卵胞壁から完全に剥離していない卵子に圧をかけて剥がす目的で行われていました。以前よりフラッシング採卵をするべきかどうかという議論は度々されています。卵がとれなかった場合、「空胞だった」と表現しますが、本当の空胞と採卵や刺激手技に依存する偽物の空胞があることが以前より指摘されています。
今回は、単一発育卵胞のフラッシング効果を検討した論文をご紹介します。
Kohl Schwartz ASら, Hum Reprod. 2020 DOI: 10.1093/humrep/deaa165.

≪論文紹介≫

大学の不妊治療施設で体外受精を希望する18~42歳の不妊女性164名(2016年2019年)を対象とする無作為化比較試験です。単一卵胞発育に対する採卵時に卵胞吸引のみの採卵、もしくはフラッシング採卵のいずれかに無作為に割り付けられています。
卵巣刺激は自然もしくは早発排卵予防のためクロミッドの内服は認められています。16mm以上になった段階でuHCG5000単位を投与し、36時間後に19ゲージシングルルーメンで採卵をおこないます。吸引群は220mmHGで吸引をおこない、フラッシング群は5回までのフラッシングとしました。
吸引採卵が81名、フラッシング採卵が83人に割り付けられ、intention-to-treat解析を実施しました。回収卵率(成熟卵)は、吸引群(n=48/81、59.3%)と比較して、フラッシング群(n=64/83、77.1%)の方が高くなりました(P=0.02)。フラッシング群では、ほとんどの卵子が最初の3回の洗浄で回収されました(n=63/83、75.8%)。受精率はフラッシング群の方が高くなりました(フラッシング群:n= 53/83、63.9% vs 吸引群:n= 38/81、46.9%  P = 0.045)。移植率は有意差まではつきませんでした(フラッシング群:n= 52/83, 62.7% vs 吸引群:n= 38/81、46.9%  P=0.06)。臨床妊娠率および出生率は、フラッシング群と吸引群で有意差は認められませんでした。採卵に要した時間はフラッシング群(2.38分)、吸引群(0.43分)とフラッシング群の方が有意に長くなりました(P < 0.01)。痛みのスコアに有意差はありませんでした。(フラッシング群:3.4 ±1.8、吸引群:3.1  ± 1.89)

≪私見≫

今回の論文は「単一発育卵胞ではフラッシング採卵が有効である」という論文でした。ただ、フラッシュしても20%近くは35歳の女性でも回収卵がない(空胞である)ことも驚きの一つであります。当院でも卵胞発育が少ない症例はフラッシング、卵胞数が多い症例は吸引で行っています。
過去のフラッシング採卵と吸引採卵の報告も記載いたします。
回収卵率は上がったけれど、フラッシュ操作の影響で卵の質が下がったら意味がありませんので、今後も自施設のデータ含めてフォローしていきたいと思います。

①複数発育卵胞の場合
いくつかの研究で卵巣刺激を行い、複数卵回収できてくる人にフラッシングをしても回収卵も周期あたりの妊娠率も増えないことが示されています。

卵巣刺激を行いたくさん卵を育てた場合は、大きさも成熟度も不均一のため洗浄を行うことはメリットが少なく、むしろ患者様にとって長く時間を要し、フラッシングを行うことで卵子への負荷をかけることも否めません。
フラッシングをすることにより採卵針やチューブ内を卵子が行ったり来たりしてダメージを与えることも可能性として十分考えられますし、フラッシングを行うことで出血を助長し卵子へのダメージを蓄積する可能性もあるからです。

②発育卵胞数が少ない場合
・回収卵数が増加しない。:前向き研究(Haydardedeogluら 2017、Mok-Linら 2013、Von Hornら 2017)
・回収卵数が増加する。:後ろ向き研究 (Souza ら 2017、 Xiaoら 2018)

③単一発育卵胞の場合
 回収卵数が増加する。:前向き研究(Mendez Lozano ら 2017)
 回収卵数も増加し、移植ができる回数も増える。:後ろ向き研究(von Wolff ら 2013)

文責:川井(院長)